|
「高阪、すっごく気が立ってた感じ。何があったんだろ?」
バックステージの高阪選手のインタビュウを行っていた記者が、僕をつかまえるなりひどく珍しい物を見たかのようにその様子を伝えてくれた。
場所は3月28日のリングス、東京ベイNKホール大会。
僕はその日スタンドのカメラ担当だったので、バックステージの様子は一切判らなかったのだが、どうやらかなり高阪の様子は普段と違ったらしい。もともと高阪は試合後のインタビュウでは笑顔を振りまくようなタイプではない。淡々と今やってきた試合を冷静の自己分析してみせるタイプで、感情的に何かを語る姿というのは余り記憶に無い。
後日、WOWOWでオンエアされたインタビュウの様子も、決して興奮して感情的になっているような感じではない。だが、その記者の言う”すっごっく気の立ってた感じ”というのは、何となく感じ取ることが出来た。語っている内容も、いつものような今自分がやってきた試合を振り返ってというものではなく、リングスの今後、そして自分の今後について語っている。問題はそれを語る口調と、”行間”からにじみ出るような思い深さなのだろう。語っている内容自体より、その背景にある何か”硬質な信念”が目に見えない迫力となって、強く印象に残るインタビュウ風景だった。
御存知のとおり、高阪選手はこの大会の二週間前に、UFC17に出場している。このときの試合後のインタビュウも、確かに普段のリングスの試合とは大きく様子が違っていた。
陽性でとにかくにこにこしていて、冗談もぽんぽん出る。御機嫌でたまらないといった開放的な様子だったのだ。こんな高阪もまた珍しい。試合で会心の勝利を収めた事もあるだろうが、それを言うならリングスのマット上であっても会心の勝利のひとつやふたつはあったはずだ。確かにあの日の高阪は、普段の思慮深い彼とは別人かと思うような、陽性の高揚に満たされていた感じがする。誰にでも経験があることだとは思うが、大きなプレッシャーを克服して結果を残した時の解放感が、人をハイな精神状態にさせるものである。当時現地で取材していたときには、UFC出場や初のNHBマッチという以外にプレッシャーになるもののが思い浮かばなかったのだが。
今回の特集はU系総合格闘技とUFCという、これまで総合界の両極にあるといわれていたこの二つの世界が、実は垣根ひとつ隔てた距離にまで接近しているのではないかという、現状を分析していくものである。それぞれがどう異なった道を歩み、その間に横たわる”距離”をどう埋めてきたのか、また今後どう交わりあって行くのか。それを論じていくことになるだろう。
高阪剛はまさにその”垣根”をまたいで、今どちらの領域でもキーとなるポジションに居る選手である。
帰国後、雑誌のインタビュウの答えて、高阪は「野球なんかと同じで、UFCはメジャーリーグだとみんなに言われた」というコメントを残している。そのメジャーリーグに参戦して、そのスターダムへの切符を掴みつつある高阪の存在は、言ってみれば大リーグで成功した野茂や伊良部のようになりつつあるのかもしれない。
その彼が見せた御機嫌と不機嫌の両極端な表情。それはそのまま、日米を挟んだ総合格闘技の二大潮流の距離感を体現していると言っていい。ルール的にはほとんど同じである野球の世界でも、大リーグと日本のプロ野球とではかなり競技として性格が異なる部分があると言うが、今総合格闘技の世界も、こうした日米の文化的差異を問われるような局面に差し掛かってきているのではないだろうか。日本人の生真面目さが生んだUWFとアメリカ人の豪快さ生んだUFC。彼がこの二つの流れを橋渡しする存在となるのか、それとも高阪個人が大きな隔たりを飛び越して一方から一方に飛び移っていくだけの事なのか。
この両極端な表情の謎を通して、高阪剛というの選手について考えていくことも、またこの特集のもうひとつテーマとして心に留めておいていただきたい。
|